田舎移住の失敗から東京へ戻ってきて、早いもので1年が経過した。
分譲賃貸マンションに引っ越して間も無く、お隣のおばあさんにご挨拶して顔見知りになって、その方と同じフロアのおばあさん2人が立ち話をしているところに出くわしご挨拶。
その時に『隣の住人が勝手に家に入ってきてしまうから、ドアノブの鍵以外にもう1つ鍵をつけてて、玄関扉の開閉時にピーピーとセンサーが鳴ってうるさくてごめんなさいね』という話をされた。
え?
今さらっと、衝撃的なこと言った。
困った顔して話してはいるけれど、放置しているってどういうこと?と色々謎だらけだったが、そのままにしているということはピーピー音のなる暗証番号入力式の鍵のおかげで防犯対策はできているのだろうくらいにふわっと聞き流し、『大変ですね、何かできることがあれば言ってください〜』と社交辞令的な返しで私は去った。
実際にその方の部屋の前まで行くと、玄関扉に『◯◯号室の人へ、家に勝手に入らないでください』という張り紙もしてあって驚きはしたが、謎は深まるばかり。
かといって、むやみに首を突っ込むのも失礼なので、不思議なことが同じマンションのフロアで起きているんだなくらいにしか思っていなかった。
今年の春か夏頃だったか、私が外出しようと部屋を出た時に1度そのおばあさんの玄関扉の前で佇む4〜50代くらいのがっちりとした中年男性の後ろ姿を見かけたことがあった。
私の部屋の前からはどうやっても顔を見ることもできない位置なので、そのまま何も動かずに扉の前でじっと立って微動だにしない違和感は、おばあさんの言っていた隣の泥棒の話がよぎりつつも、不自然に挨拶するわけにもいかず私はなにもできないままエレベーターに乗った。
先月のとある平日、予約していた病院に遅れそうで慌てて部屋を出ると、エレベーターの前で私の部屋の隣のおばあさんと泥棒に入られて困っていると話していたおばあさんが2人で何か立ち話をしているところに出くわした。
こんにちはと挨拶をすると、困っている方のおばあさんが飛んできた。
『もう本当に困っていてどうしたらいいかわからないの。助けていただけませんか。お願いします。』と言われて驚いた。
午前の予約診療時間に間に合わなくなりそうで困ったが、その場で何があったのか簡潔に聞いた。
すると相変わらずピーピー言うセンサーの鍵をつけているにもかかわらず、隣人が部屋に入ってきて物を勝手に持っていくのだと。
もう限界とでもいうようにすがるような表情で、同じマンションの住人で挨拶をしてしまった以上もう知り合い。
私も見て見ぬ振りはできなかった。
とりあえず予約している病院に遅れそうなので、帰ってきてから話聞きますから連絡先を教えてくださいと言って携帯の番号を交換。
夕方帰宅してから電話をかけた。
もしおばあさんの部屋に私が行くと、泥棒疑惑の隣人に私も目をつけられては嫌なので、とりあえずすぐ私の部屋に来てもらった。
玄関先でコトの経緯をメモをとりながら伺った。
おばあさん自身のことや家族のこと、隣人の情報や泥棒の動機、今までにやった対策、私にどうして欲しいのかなど。
話を伺っていると私の母と同じ歳であることがわかったので、認知症の可能性も半分考えながら話を聞くことにした。
保健所やシルバーセンター、警察など様々なところで相談したり通報もしてきたが、認知症だと思われてまともに誰も取り合ってくれないと悲しい表情を浮かべた。
うーん、確かに話を聞く限りちょっとあり得ないし信じられない。
泥棒疑惑の隣人はシングルファザーで小学高学年と中学生の男の子2人とパパの3人暮らし。
ランドセルを背負ったガタイの良い少年とエレベーター前ですれ違ったことが1度あるが、元気な声で挨拶のできる感じの良い子の印象を持っていたので本当に驚き。
向こうが引っ越してきてからすぐに始まった親子3人の不法侵入と泥棒を繰り返してもうかれこれ4年以上だという。
家の中にあった食べ物や飲み物が消えたり、隠しておいた貯金箱のお金がなくなっていたり、亡き旦那の高級スーツが消えたと思ったら数日後に戻っていたり、便器に流し忘れの見知らぬうんこが残っていたり、下から突き上げるような振動が隣から感じたりと言った具合。
スマホのバッテリーの減りが異常で半日もたないとか、iPhoneでメールを入力していると消えることもあるから私の携帯は遠隔操作と盗聴されているとも信じきっていた。
おいおいおい・・・遠隔操作だなんて、私の大好きだった海外ドラマ『パーソンオブインタレスト』の世界かよと内心ちょっと興奮。
実際に一般人がそんな簡単に遠隔できるのははわからないが、少なくとも同期はされていないようだったし、バッテリーもなにせiPhone7だから、設定から確認してみると80%を下回り著しく劣化が見られるのでバッテリーの交換をと表示されている旨を伝え少し安堵した様子。
にしても怖すぎる。
本当に隣人親子の仕業だったとしても怖いけど、認知症だった場合でも自分に身に覚えがないわけだから本人にしてみればきっと怖い。
当然認知症かもしれないということと、証拠がない上に怪我人も死人も出ていないので、警察もまともに取り合ってもらえず。
聞けば聞くほど認知症っぽい。
だけど被害が始まってから約4年、ノートに全部記録を残していたり会話のどこにも違和感がない。
ちょうどたまたま介護職のお客さんがいたので、ちらっと話してみたがやはり認知症だと思うと言われる。
なぜ隣人は不法侵入と窃盗を何年も繰り返し続けるのか。
おばあさん曰く、持ち家のおばあさんの部屋は角部屋で景色もなかなか。
隣人は賃貸で貸主が不動産屋だそう。
その不動産屋が中国人の親子を雇って、嫌がらせを繰り返しおばあさんを追い出そうとしているのだと推測。
うーん、否定も肯定もしにくいけど嘘っぽくも聞こえない、ここは新宿何が起きても驚かない。
とりあえず全てを鵜呑みにして私が変に事を荒立てないように、数日時間をくださいと伝えてできることを考えてみることにした。
①次に警察へ通報する時はきちんと被害届だけでも書かせてもらうように主張する。
万が一おばあさんが殺されてしまった時に、過去何度も通報したのに届けも出していなかったら証拠もなく責任問題も問えなくなるのではないかと伝え、通報と相談した事実を警察で記録を残すよう提案した。
②子供を巻き込んで親子で住居侵入と窃盗をしているのなら、児童相談所に通報して親が窃盗の強制を子供にしているのではないかという心配者のフリをする。
③自宅の部屋の中に隠しカメラを設置する、設置は探偵事務所に依頼して通報した時に警察に動いてもらえるような証拠を掴む手伝いをしてもらう。
④おばあさんが希望していたさらにセキュリティ効果の高いカードキーに、再びの鍵交換する。
もう総額50万円以上かけて、鍵交換だけで何度も何度も変えてきたそうで、それでも簡単に破られてきたと。
おばあさん曰く、相手は恐らく空き巣か鍵解錠屋などのプロではないかと。
部屋の持ち主が不動産屋だから、鍵屋の知り合いがいても確かにおかしくはないか。
この話をするとみんな口を揃えて、赤の他人になぜここまで真剣に対応をしているのかと。
確かに認知症高齢者の戯言かもしれない。
でもおばあさんの部屋の扉の前のに佇むガタイのいい不審な中年男性を目撃してしまっているからに尽きる。
本当に狙われていたとしたら?
寝室で眠ろうとしていると、ふすまの扉1枚向こうの台所で会話しているのが聞こえてきた時の恐怖も語ってくれた。
お隣さんの部屋の壁越しではなく、明らかに自分の家の中にふすま一枚先で物色しているのがわかって、恐怖から動くこともできず寝たふりしかできなかったなんて聞いてしまったら・・・。
確かに命までは狙われていないのかもしれない、とはいってもこんなんじゃノイローゼになってしまうし、この先も命狙われない保証はない。
鍵を簡単に解錠できてしまうプロ並みの腕前なら高齢者女性の一人暮らし、老衰とか病死と見せかけて完全犯罪だってできてしまいそう。
というわけで今すぐに私がお手伝いできそうなことといえば、③か④かなと。
盗撮盗聴系に詳しそうな探偵事務所とセキュリティーの高い鍵を取り扱う鍵屋を探すことを検討した。
そしてそこから喜んでしまったおばあさんが毎日のように電話をしてきては今家にいます?と言ってはうちに来てお願いや被害の話などを始めた。
4日目には私の部屋の玄関先で、キリスト系の宗教に入ってて困った時には女神様が助けてくださるという話をされた時はちょっと後悔がよぎった。
そこから電話に出ると立ち話しにきてしまうので、着信があってもこちらが調べ物が終わるまでは電話に出ないようにしたところ少し落ち着いた。
高齢者ってみんな話したくて話したくて仕方ないんだろうな。
ましてや仕事していない人は特に会話相手がいないもんな。
自分の未来を見ているようで、あまりそっけなくすることもできない。
かといって、こちらにも生活がある。
さすがに母と同じ歳の人とお友達にはなれない。
適度な距離感大事だわ。
自分の母親が毒親だから鍛えられてしまったのか、他人の母親は全然普通に見えてしまう。
聞くと私と同じくらいの年齢の子供が3人都内に住んでいるらしいが、長年不法侵入と窃盗に悩んでいる母親を放置していることに謎を感じつつ、恐らく私の母親と似た系統の何かも感知したので、親子とはいえど深入りしすぎないようにしているのかなと勝手に察した。
とはいえ、自分の母親と置き換えて考えた時に、探偵に依頼して部屋の中に盗撮カメラを依頼を代理で受けるにはちょっと出過ぎた真似をしやがってっと子供の私なら思うところ。
なにせ探偵に依頼したらきっと5万、10万ではすまなさそうな気がする。
もし認知症だった場合も身内に怒られそう。
ということで、ご本人には鍵屋さんは探すけど、探偵に不法侵入の証拠を掴むためのカメラの設置依頼は一度ご家族の承諾が欲しいので必要あらば電話でも直接でも話をしてからにしましょうと伝え納得してくれた。
今まで依頼した鍵屋さんは自力でタウンページを見て電話したそうで。
タウンページ懐かしい。
久々に聞いたわ。
そもそもインターネット自体が使えないわからない高齢者を食い物にしている業者多そうだなー知らんけど。
高齢者な上に、隣の住人が侵入してくるなんて被害妄想とか認知症っぽいとか思われ、面倒臭いとまともに取り合ってもらえていなさそうなので、目星をつけた鍵屋さんにも事の経緯から説明し代理の電話である旨を伝えた。
ここでも相変わらず認知症じゃないですか?って言われたけれど、ここで諦めたら私が代理で掛けている意味がなくなる。
半分認知症かもしれない前提で私も動いていますと伝えると、承知してくれた。
ちょうど居住地から近くてすぐに鍵交換をしてくれて、高齢者ならテレビで紹介されたことある鍵屋さんだそうですよと伝え、テレビは絶対の世代だと思うのでちょうど適任者をすぐ見つけることができ、運良く数日後にすぐ来てくれることになった。
しかも念願のカードキーに、暗証番号と指紋認証のトリプルキーの豪華板。
設置費用込みで5万前後。
正直相場はわからないが、お金ならいくらでも出すのでと懇願するのでそれでお願いすることにした。
問題は、80歳近いおばあさんが使い方を覚えられるか。
隣の住人は鍵のプロみたいだけど、鍵レスキューみたいな方でも簡単に開けられる鍵なのかどうかということ。
暗証番号と鍵の開け方は私がみるわけにはいかないので、直接マンションのフロアのところに来ていただいたところまでは立ち会い、部屋に引っ込み、終わった頃にまた呼んでもらった。
かなり何度も開け方の操作を丁寧に教えてくださる鍵屋さんで助かった。
私が代理で開け方を覚えるわけにもいかないし。
もし私が引っ越した後にまた鍵交換が必要な状況になった際、自分で電話できるようにと名刺ももらっておくようにアドバイス。
鍵はレスキューなど我々鍵専門屋でもそう簡単に開けられない鍵ですとお墨付きももらった。
本当にありがとう、ありがとうと涙ながらに感謝されて私も嫌な気はしなかった。
お礼にお菓子とお米5KGいただいた。
そう今、東京都が高齢者に配っている例のお米のお裾分け。
一人暮らしの高齢者にまとめてお米25KGも物資支給されても困るわな。
ということで頂いた。
一日一善した感じ。
他人に親切にすると幸せホルモンでるっていうしな。
その後、2〜3回電話の着信があったが、仕事などのタイミングで出られず。
緊急ならまたかかってくるかなと折り返しはしていない。
さらに10日ほど経過した頃、ちょうどお子さん2人(私と同じくらいの年齢)が挨拶したいと3人で訪問してくださった。
こちらが出かける直前だったのでほんの2〜3分。
口数の少ない感じだったので鍵交換に対する感謝なのか、認知症の母の相手をしてくれてありがとうだったのか、表情からは読み取れなかった。
その後、隣の不法侵入と盗難はどうかと聞くと、バッチリ!と嬉しそうなおばあさん。
1日中家に篭りっきりの隣人らしいので、常に貴重品を持ち歩いてて、いつ家に入られるか分からないから長時間部屋もあけられず、買い物行くにも大荷物だった姿を考えると私もお手伝いして本当に良かった。
真相は謎のままだけど、本人が安心して眠れるならそれでいいじゃないか。
とりあえず探偵探してカメラ設置の依頼はしなくてすみそうなだけでこちらも安堵。
自分の住むマンションの同じフロアの住人同士で起きた不可解な謎。
一棟丸ごと老人ホームみたいな超高齢住民だらけの小さな分譲マンション。
どうかこの先もずっと何事も起こりませんように。
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